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terça-feira, 26 de março de 2024

映画の感想『Perfect Days』

感動しなかった。
でも、事前に映画の出資者やこの映画が作られた動機を知らなければ、違う感想は抱いたかもしれない。

平山はお抱え運転手付きの車で訪ねてくる妹がいるぐらいなので、
お金に不自由はしない家の息子だということが映画から伝わってくる。

職業選択の余地がなくてトイレの清掃員をしているわけではない。そのことを監督は隠していない。
しかし、平山があのような暮らしをするようになった理由や原因については語られていない。

映像から分かるのは、仕事の量が急に増えるとイラっとしたとしても、
平山は生活に満足していることだ。毎日、毎週、決まったことを几帳面にこなして日々、生きている。
趣味がないわけでもなく、人との交わりがいっさいないわけでもない。
ちょっと気を寄せている女性もいる。味気ない生活というのではない。

実際に、平山は私っぽくもある。
平山の生活が自己満足によって充実しているところだ。

私が気持ちよく生活している時は、平山のように空を見上げている。
写真を撮っては、だれに見せるわけでもなく、なかなかいい写真だとか失敗だとか思ってる。
街の中を歩き回って、ほんの小さなことで喜びを感じて満足する。

何かを成し遂げようとか、人を幸せにしようとか役に立ちたいとか、そんな気持ちは1ミリもないし、
それを持たないことに負い目もない。年を重ねたからということはあるだろう。

だからと言って、平山に共感できるわけではない。むしろ、なんとなく居心地の悪さを感じていた。

なぜなら、この映画を絶賛することで、平山とは違って選択の余地なくトイレ清掃や人のやりたがらない仕事をする人たちや社会に貧しいままでもいいじゃないかという考えを押し付けたり、「こうやって小さな幸せを見つけて暮らせばいいんだよ」と思わせてはいないだろうか。そういう風潮が世の中に作り出されることが怖い。

作家の川上未映子さんの言葉を引用する。

「これは、若い人たちのこれからに通じる問題(注:あの暮らしの描かれ方をどう捉えるのか、というのはとても難しい問題だと思います。いっぽうで、彼が責任を負うのは自分の生活だけでもあります)でもありますよね。今はもう、他人の人生にかかわることじたいが贅沢というか気が知れないというか、自分ひとりが生存するだけで精一杯で、他人の責任を負うことなんてできるわけがないと感じている若い人たちが本当に多い。持てる人たちが「平山さんの生活は、静かで満たされていて美しくて素晴らしい」というのは、そりゃ彼らは豊かな観察者だからそれはそう思うでしょうけれど、肉体労働をしていたり、相談できる人が誰もいないというような若い人たちがこの映画を観てどんな感想を持つのか、非常に興味があります」

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