被災地のスナップ写真
すでに2週間ほど前になるが、被災地で集められた写真の洗浄に行ってきた。場所は練馬区光が丘。統廃合になった小学校の教室を借りて写真を奇麗にする作業を行っている。作業そのものの流れはWebで確認していたが、写真がどのような状況になっているのかということに心の準備が足りていなかった。
漠然と「流されたアルバム、写真」と思っていただけの私。目の前にある写真にびっくり。震災から10カ月も経過してバクテリアの繁殖や海水による影響で写真の色が溶け出し混じり合っている。まるで金箔を流し込んだ抽象画のようだ。
初めての参加者としてまず行ったのが、アルバムからはがされた写真の「洗い」。抽象画のようになった写真は洗うとほとんどが真っ白の印画紙に戻ってしまう。バクテリアの繁殖を免れた箇所がわずかでもあるとそれを手がかりに持ち主や知り合いの元に帰ることができる。残るところはないか祈るような気持ちで洗っていく。私がこの日、担当したアルバムにはパノラマ写真が多かった。パノラマ写真が大流行していた頃のものだろう。私も宴会など人が多く集まる時にパノラマ写真を使ったなと思い出す。そして、海外旅行の雄大な景色もパノラマに収めた。アルバムの中にも同じような写真がたくさんあった。写真の数も多く、撮っている場所も様々。おそらく写真が好きで、どんな集まりでも写真の係は○○さんねと言われていたに違いない。
別の教室に入ったら、壁にそって乾ききっていないアルバムが並べてあった。ドロにまみれ、ひしゃげ、水を含んだアルバム。卒業アルバムもあった。家の中にしまわれてあったはずのアルバムが私の目の前にある。写真が流されたということは、家も流されたということ。ドロだらけということは、ドロだらけの水が押し寄せてきたということ。アルバムがゆがんでバラバラになりそうなのは、それだけの力がかかったということ。
私を含めて初めて参加した人たちは無言だ。何も言えない。その中に私が持っている101匹ワンちゃんのクリアファイル式アルバムがあった。同じ時代に生きてきたんだ・・・
次に行った作業が「はがし」。「ふえるアルバム」から写真を丁寧に取り外していく。この日はひとつのアルバムを8人ぐらいで担当。最近、回収されたアルバムらしくまだ水分を含んでいる。写真の上に張った透明シートの隙間からも水や砂が入りこんでいる。
青い表紙の「ふえるアルバム」。私も似たようなアルバムを持っている。髪型、服装、出かけた場所から私と同じ年頃の女性のものだとわかる。友達との旅行、家族との旅行、成人式・・・・。まるで自分のアルバムだ。アンノン族と言われたあの頃。ちょっと遠出は沖縄。写真の横に出かけた場所の小さなメモ。この写真の女性は無事にあの津波から生き延びることが出来たのだろうか? それとも、陸前高田を離れたところに住んでいたのだろうか? 家族は? そう思うと作業の手が止まってしまう。生きて、この写真を手にしてほしい。
カメラ好きの日本人がいつでもどこでも取っているスナップ写真・・・・
泥だらけのアルバムから写真をはがしたり、写真にこびりついた砂を落としているうちに、スナップ写真は、「幸せな時」に撮っているのだと気づかされた。久しぶりに会った人たち、あこがれの土地、子供の誕生、娘の結婚式、村の祭り・・・・。そのどれもが二度とない一瞬なのだ。構図が悪かろうが部屋の中が散らかっていようが大切な思い出。何もなく人生を終えれば忘れ去られてしまう写真かもしれない。押し入れの中にしまいこんで終わり。でも、今、東北の地で何もかもなくしてしまった人たちにとっては、この写真の一枚一枚が自分と過去をつなぐ大切なものになるかもしれないのだ。
「写真洗浄」に行って、現地入りしたいない私は少しだけ津波の恐ろしさを体感できたように思う。目の前に「現実」があるのはテレビで見ているのとは違う。そして、写真が私に語りかけてくれたものは、あたりまえだけど忘れてしまうことだ。
「家族や友人と一緒にいられる時間を大切にしろよ!文句ばっかり言っているな。大笑いした時があったじゃないか。鹿島が勝って嬉しかったじゃないか。そういう一瞬一瞬が幸せってもんだ!」
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もうすぐあの日から1年。日に日に劣化していく写真を残すのは時間との戦いです。この作業に興味を持ったら是非、参加してほしい。短い時間の参加でもかまわない。初参加でもやさしく教えて貰えるから作業に対する不安はありません。
申し込み先:「写真洗浄@光が丘」 リンクはこちら。
全国各地で似たような活動をしているところはあります。ネットで「写真洗浄」を探してみてください。いろんな体験談もあります。
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